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名古屋大学環境医学研究所 市民公開講座2011「癌の新たな治療戦略」

日時: 平成23年10月15日(土) 13:00~16:30
場所: 名古屋大学 野依記念学術交流館 [アクセス]
主催: 名古屋大学 環境医学研究所
共催: 文部科学省 新学術領域研究 「修飾シグナル病」

名大 環医研 分子シグナル制御分野 久保田裕二

去る10月15日、名古屋大学野依記念学術交流館にて名古屋大学環境医学研究所および文部科学省新学術領域研究「修飾シグナル病」研究班による市民公開講座が開催されました。本講座は「癌の新たな治療戦略」と題し、様々ながんの発症機構、病態、診断、治療、予防などに関する情報を分かりやすく市民の皆様にご説明することで、がんに対する理解を深めて頂くことを目的として行われました。

本講座では、がんの診断、治療、研究において第一線でご活躍されている先生方に講演をして頂きました。癌の臨床医の立場から秋田赤十字病院 消化器病センター部長 山野泰穂先生、名古屋大学医学部附属病院 化学療法部長 安藤雄一先生、聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科講師 渡邉嘉行先生がご講演されました。また、文部科学省「修飾シグナル病」研究班より領域代表の井上純一郎先生(東大医科研教授)、東京医科歯科大学教授の山岡昇司先生、また本講座を企画した名大環境医学研究所の武川睦寛教授が参加されました。

武川先生の司会進行のもと、まず名古屋大学環境医学研究所の村田善晴所長(写真左)による開会の辞に続き、新学術領域研究「修飾シグナル病」領域代表の井上教授(写真右)からご挨拶と研究班の概要をご説明頂きました。その後、各先生による講演発表が行われました。また、本講座の最後にパネルディスカッションの時間を設け、市民の皆様からの癌に関わる様々な疑問に対する質疑応答を行いました。


 

「大腸がん:早期発見のすすめ 」
山野 泰穂先生 (秋田赤十字病院 消化器病センター 部長)

山野先生は最新の大腸内視鏡検査による大腸がんの診断技術の進歩についてご講演されました。従来の技術では同定が困難であった初期段階の大腸がんの早期発見に、特殊ながん染色技術を用いる事が極めて有用であるという知見を、内視鏡カメラによる大腸がんの映像と共に分かりやすくお話しされました。


 

「がん化の仕組みと新しい治療薬」
武川 睦寛先生 (名古屋大学 環境医学研究所 教授)

武川先生はがん遺伝子発見の歴史とその機能、そしてがん遺伝子が細胞をどのようにがん化させるのかを分子的な視点からご説明下さいました。また、基礎研究の成果を基にして、近年開発されてきた分子標的抗癌剤の効果とその作用機序について、最新の報告例を交えつつ詳細にお話しされました。


 

「ウイルスとがん」
山岡 昇司先生 (東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 教授)

山岡先生はヒトに感染してがんを誘発するウイルスについてご講演されました。がんウイルスの例として、特に子宮頸癌を導くヒトパピローマウイルス(HPV)、肝臓癌を導く肝炎ウイルス(B型・C型ウイルス)の感染機構と発癌機構をご説明になり、さらに感染対策としてのワクチン予防についてお話しをされました。


 

「分子標的治療薬による新しいがん治療」
安藤 雄一先生(名古屋大学 医学部附属病院 化学療法部長)

安藤先生は分子標的治療薬による癌治療の実際、特にその治療効果と副作用について、名古屋大学附属病院でのケースを例としてご紹介されました。また、新たな分子標的治療薬の開発のための早期臨床試験(治験)のプロセスについて、詳細かつ分かりやすくご説明下さいました。


 

「胃がん治療の進歩と未来への挑戦」
渡邉 嘉行先生(聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科 講師)

渡邊先生は胃の健診・診断による胃がんのリスクマネジメントの重要性についてご講演されました。特に、胃がんを早いステージで発見する最新の診断法として、従来廃棄されていた胃洗浄液を回収し、液内に含まれる腫瘍マーカーを遺伝子レベルで検査するという画期的な方法をご発表されました。


全講演の終了後、会場の皆様のがんに対する疑問を解決するために、パネルディスカッションが行われました。同プログラムでは非常に多くの方々からご質問を頂き、それら全ての質問に対して講演を行われた先生方から詳細な回答が返されました。本講演会には、実際に御家族が癌と診断され、治療を受けておられる方なども多く出席されており、先生方とご参加頂いた皆様との間で非常に真剣かつ活発なディスカッションが行われました。

開催当日は小雨という悪天候にも関わらず、143名の一般市民の方にご来場頂きました。先生方の講演も非常に分かりやすく、スライドの一枚一枚が強く惹き付けられる内容であり、がんの診断・治療に対する研究開発の重要性を改めて認識することが出来ました。

また、各講演の終了毎に行われた質疑応答や、本講座最後のパネルディスカッションでは、非常にたくさんの方々からご質問を頂き、大変活発な議論が行われました。今回の市民公開講座の全プログラムを通じ、ご参加頂いた皆様に「癌の新たな治療戦略」について興味をお持ち頂き、また理解を深めて頂けたのではないでしょうか。雨の中、多くの市民の皆様にご参加頂きましたことを改めて厚く御礼申し上げます。