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日本応用数理学会2012年度年会 数理医学研究部会オーガナイズドセッション報告

日時: 2012年8月29日~9月2日
場所: 稚内全日空ホテル
URL: http://www.oishi.info.waseda.ac.jp/~jsiam2012/

2012年8月29日から5日間の日程で、北海道稚内市で応用数理学会が開催されました。修飾シグナル病は異分野融合を掲げており、数理系研究者との共同研究を重視しています。領域代表の井上純一郎先生が数理系学会で生物学の研究発表の機会を作りたいと発案され、市川が大阪大学・鈴木貴教授と協力して応用数理学会でのセッションを企画しました。数理系学会で初めて研究発表する実験系班員も多かったのですが、分かりやすい発表であったため、数理系研究者との間で活発な異分野交流が実現できました。

修飾シグナル病からの講演が数理医学研究部会セッション全体の半分を占め、6名が発表しました。トップバッターは井上純一郎先生で、「核と細胞質の間で振動する転写因子NF-κBの生物学」と題してNF-κBのシグナリングの基本から、先生が新たに観測したRelBの振動の実験報告をされました。これまでRelBの振動の報告はなく、そのメカニズムは不明な点が多いのですが数理系研究者にもわかりやすい話をされ、高い関心を引きました。続いて大島大輔さんが「転写因子NF-κB振動の数理モデル」と題して、核内RelAの振動のコンピュータシミュレーションについて報告をしました。これまで空間的な影響を調べることのできる3Dシミュレーションの報告はなかったのですが、核細胞質体積比や拡散定数などの空間パラメータが振動パターンに影響をあたえることが報告されました。次に市川が「ストレス顆粒の形成・維持・消滅の力学」と題してストレス顆粒(SG)ダイナミクスのコンピュータシミュレーションの報告を行いました。SGの数、位置、大きさを決定するメカニズムは不明ですが、SGを構成するタンパク質やRNAの時空間的相互作用によっていわば自己組織的にそれらが決定される結果を報告しました。山岡昇司先生は「転写因子NF-kappaBの持続的活性化機構」と題して、一過性あるいは持続性に活性化するNF-κBのシグナル伝達機構を、薬物を用いて解明する研究を紹介されました。次に徳永文稔先生が「直鎖状ユビキチン鎖形成とNF-κBシグナル伝達」と題してユビキチン修飾の話をされました。先生自身が発見された直鎖状ユビキチン化のメカニズムを中心に、ユビキチン化の全体像を数理の先生にもわかり易く話されました。また石谷先生との共同で直鎖状ユビキチン化複合体の結晶構造解析の最新研究についても報告されました。最後に石谷隆一郎先生が、「分子動力学シミュレーションから調べるタンパク質のダイナミクス」と題して結晶構造解析とMDシミュレーションの話をされました。結晶構造解析の基本を紹介され、実際に使用している高性能並列計算機の写真も見せるなど、具体的な印象を数理の先生にあたえる講演でした。

稚内という場所柄、涼しい絶好の環境で学問に浸ることができると期待していたのですが、予想に反し東京とあまり変わらない暑さの中で、まさしくホットなセッションを繰り広げました。最初は数理の先生に対してどのような話をすれば興味を持ってくれるか戸惑いを持った実験系の先生もおられたと思われますが、案ずるより産むが易しの諺どおり、数理の先生からも多くの質問が出され、座長が時間管理に苦労する場面があるほどに活発な討論が行われました。このような異分野にまたがる研究者がお互いに議論する機会がいっそう広がることを期待すると同時に、修飾シグナル病の領域でも積極的に展開していきたいと思います。

報告:東京大学医科学研究所・市川一寿