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第1回国際シンポジウムのご報告
"1st International Symposium on Protein Modifications in Pathogenic Dysregulation of Signaling"

領域代表 井上純一郎


会場の講堂前に掲示されたポスター

「修飾シグナル病」領域の第1回国際シンポジウムを平成25年2月1日(金)、2日(土)の2日間、東大医科研講堂にて開催しました。今回は、私と武川先生とが企画委員ですが、異分野連携を提唱する我が領域としての初めての国際シンポジウムですので、海外演者を決めるに当たっては総括班全体でじっくり検討しました。 分子細胞生物学の研究者としては、DNA損傷で誘導されるNF-κB活性化シグナルについてSUMO化による制御機構を中心に研究しているUniversity of Wisconsin-MadisonのShigeki Miyamoto博士、ストレス活性化シグナルによる遺伝子発現と細胞周期制御について研究しているUniversitat Pompeu Fabra(スペイン)のFrancesc Posas博士、Aktシグナルのがん化における多様な機能について研究しているHarvard Medical SchoolのAlex Toker博士の3名を招聘することにしました。加えてプロテオミクス研究者として、リン酸化やユビキチン化タンパク質の質量分析計による網羅的な解析で多くの成果を上げているUniversity of South DenmarkのBlagoy Blagoev博士を、システムズバイオロジー研究者で複雑なシグナル伝達をシステムよして捉え疾患との関連を追求しているKAIST(韓国)のKwang-Hyun Cho博士をお呼びしました。シンポジウムでは、これら5名の海外演者に加えて、総括班員8名、公募班員12名、昨年10月に湯河原で開催した若手ワークショップでの最優秀及び優秀賞受賞発表者2名、合計27演題が研究対象とするシグナル経路や解析方法の観点から9つのセッションに分けて発表されました。また、時間の都合上、公募班員の全員に口頭発表していただくことができず、他の先生方には、シェラトン都ホテル東京で1日夜に開催された研究交流会でポスター発表をお願いしました。プログラムの詳細についてはここをご覧ください。特に班員の先生方の発表内容については、この報告文には記載しませんのでご了解ください。


Dr. Shigeki Miyamoto


Dr. Kwang-Hyun Cho


Dr. Francesc Posas

 いつものようにまずは領域代表である私が簡単に挨拶しスタートしました。

 Session1と2はNF-κB関連シグナルについてで、私に続いてMiyamoto 先生、徳永文稔先生、山岡昇司先生、奥村文彦先生の順です。Miyamoto先生はSpecial Lecture 1として50分講演されました。Miyamoto先生はDNA損傷によってNF-κBの活性化が誘導されるためには核内でおこるNEMOの277番目と309番目のLysのSUMO化が必須であること、そして誘導されたNF-κBが細胞死を抑制し、がんの悪性化に関与することを実験データに基づいて詳細に話されました。

 昼食後のSession 3は構造生物学および数理モデリングからのシグナル解析に関してです。石谷隆一郎先生、佐藤裕介先生、市川一寿先生に続いてKwang-Hyun Cho先生が講演されました。Cho先生は電気工学が専門で生物学者とは異なる視点からシグナル伝達をシステムとして捉えています。講演では生物は複雑なのでシステムとして理解することが必要であり、そのためにはシグナル伝達パスウェイの包括的理解が必要となること、またパスウェイにはフィードバックやフィードフォワードのループが多く内包されているが、ループに関わる変数を変化させて網羅的に各ループの影響を調べることで、システムとしての理解が可能であることを例を示しながら具体的に説明されました。

 Session 4はMAPK関連シグナルについてで、武川睦寛先生、Posas先生、武田弘資先生、加納ふみ先生の順です。Posas先生は、ストレス応答MAPK(SAPK)シグナルによる遺伝子発現調節機構と細胞周期制御に関する最新のデータを紹介されました。遺伝子発現調節機構に関しては、SAPKが単にリン酸化酵素として機能するばかりでなく、転写因子と共に標的遺伝子のプロモーター上に結合し、RNAポリメラーゼやクロマチン修飾酵素をリクルートすることでストレス応答遺伝子の発現を亢進させることをお話しされました。一方、細胞周期制御に関しては、高浸透圧ストレスによって活性化されたSAPKが、CDKインヒビター(p57Kip2)をリン酸化して細胞周期をG1期で停止させることを示されました。また、SAPKがDNA複製複合体の形成を阻害してS期の進行を停止させることを示し、さらにこの機構に異常のある細胞では、ストレス環境下でもDNA複製が停止しないため、ゲノム上で複製と転写の衝突が起こって染色体不安定性が惹起されることをお話しされました。

 第1日目のシンポジウムはここまでですが、この後、領域班員のみで領域推進会議を開催し、さらに場所をシェラトン都ホテル東京に移してポスター発表と研究交流会を開催し夜9時ぐらいまで討論しました。


ポスター発表と研究交流会



Dr. Hikari Yoshitane


Dr. Toshiro Hara


Dr. Alex Toker


Dr. Blagoy Blagoev

 第2日目は、まずSession 5で湯河原の温泉旅館「ホテルあかね」で開催した若手ワークショップでの最優秀発表賞の吉種光先生(深田班)及び優秀発表賞の原敏朗君(越川班)の講演です。吉種先生はJNKによるBMAL1/CLOCK転写複合体のリン酸化が概日時計システムの重要な制御機構の一つであることを分かりやすくユーモアを交えてお話されました。また、原君は、HIF-1の抑制因子FIH-1の抑制因子Mint3のマクロファージにおける生理機能をノックアウトマウスのデータを用いて紹介しました。お二人とも内容はもちろんのこと発表自体も良く工夫されており将来が多いに期待されます。領域代表として大変うれしく思いました。

 Session 6はAktシグナルについてで、高橋雅英先生とToker先生の講演です。Toker先生はAktキナーゼのがんの浸潤におけるアイソフォーム特異的な機能についてお話されました。即ち乳がんにおいてAkt1の活性化が浸潤能の抑制に、Akt2の活性化が促進に働くこと、そしてそのメカニズムの解明を目的として、Akt1特異的な基質タンパク質Palladinを同定し、Akt1によるPalladinのリン酸化が、アクチン線維のbundle形成を促進することにより乳がん細胞の運動能を低下させることを示されました。

 Session 7は、がんの悪性化における翻訳後修飾の意義に関する話題で田口恵子先生、吉田清嗣先生、西英一郎先生がご講演されました。

 Session 8はプロテオミクスによるシグナル解析についてで、尾山大明先生、Blagoev先生、梁昭秀先生がお話されました。Blagoev先生にはヒトES細胞の分化におけるタンパク質やそのリン酸化修飾レベルの経時変化に関する大規模なプロテオーム解析について、最新の研究成果をお話頂きました。また急速に広まりつつあるユビキチン化修飾のプロテオーム解析に向けたアプローチとその応用の一端についてもご紹介下さいました。

 最後Session 9は細胞増殖・分化における翻訳後修飾の役割についてで、有賀早苗先生、石谷力先生、後藤英仁先生、そして取りは山梨裕司先生です。

 シンポジウム参加者は116名、2日間に渡り活発な議論が絶えることなく会場は常に活気に満ちていました。今回、海外演者の先生方とのお話の中で日本の研究費制度、特に新学術領域研究の意義について紹介し、自国の研究費制度との比較から有意義なコメントをいただきました。さらに激励の言葉もいただき領域代表としてはうれしい限りです。また、普段直接お話できない班員の先生方や若手の研究者の方とも交流ができたことで、多くの収穫がありました。本領域は残り2年余りですが、ギヤを入れ替え加速して行くつもりです。どうか今後ともよろしくお願い致します。


熱気に満ちた講演会場