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13th International TNF conferenceに参加して

東京大学医科学研究所・分子発癌分野
柴田佑里 

私は5月15日から18日にかけて淡路島で開催された13th International TNF conferenceに参加しました。この学会はTNF受容体スーパーファミリーに関する最新の研究成果を発表する場として、また、この研究分野に関わる研究者同士が交流する場として隔年で開催されています。TNF受容体及びTNF受容体スーパーファミリーは様々な生命現象に関与していることが知られていますが、今回の学会では特に、炎症反応、個体発生や組織形成、アポトーシスとネクローシス、癌、炎症性疾患や癌の治療への応用に関する発表が多くありました。シンポジウムは午前と午後のセッションに分かれており、その間にポスター発表が行われました。シンポジウム発表は各分野における著名な先生の研究成果を聞くことができ、非常に興味深かったです。


Coffee breakの様子

私が特に興味を持ったシンポジウムは、我々の研究にも関連しているⅠ型TNF受容体下流におけるポリユビキチン化修飾とNF-κB活性化機構に関する発表です。これまで、TNF受容体下流のシグナル伝達に関与するポリユビキチン鎖として63番目のリシンを介した63型ポリユビキチン鎖の解析が主に行われてきました。しかし、近年、63型ポリユビキチン鎖に加えてE3リガーゼLUBACによって形成される直鎖状のポリユビキチン鎖もIKK活性化に関与していることが報告されています。今回のシンポジウムでは、Kazuhiro Iwai, Henning Walczak, Fumiyo IkedaらがLUBAC複合体の新たな構成分子SHARPINの同定、SHARPINの自然変異マウス (cpdmマウス) の解析について発表していました。彼らは1) TNF-α刺激依存的にⅠ型TNF受容体にHOIP-HOIL-1L-SHARPINが結合すること、2) 質量分析によってTNF受容体下流に形成されるシグナル複合体に直鎖状ポリユビキチン化修飾を受けたNEMOとRIP1が含まれること、3) LUBAC複合体によって誘導される直鎖状ポリユビキチン化がNF-κB活性化に必要であることを示していました。さらに、cpdmマウスのB細胞、マクロファージ、マウス胎児繊維芽細胞ではCD40リガンド、TNF-α、LPSによって誘導されるNF-κB活性化が減弱していることも報告していました。cpdmマウスは慢性皮膚炎,種々の免疫異常,関節炎など多彩な症状を呈することから、直鎖状ポリユビキチン化によって制御されるNF-κB活性化がこれら疾患に関与することが示唆されます。

一方、Zhijian James ChenはⅠ型TNF受容体やIL-1受容体下流における63型ポリユビキチン鎖の役割に関して発表を行っていました。彼はTRAF6とIKK複合体の間を結ぶ分子としてTAK1, TAB2, Ubc13/Uev1aを発見した経緯から63型ポリユビキチン鎖がどのようにシグナル伝達を制御するのか詳細なメカニズムまで説明しており、NF-κB活性化とポリユビキチン化修飾の研究の包括的な話を聞くことができました。また、彼のグループはTNF-α刺激によるポリユビキチン化NEMOの誘導、精製を行い、AQUA法を用いてどの型のポリユビキチン鎖が多く存在しているのか定量的に解析していました。その結果として、直鎖状のポリユビキチン鎖は誘導されているものの、その量と比較して63型のポリユビキチン鎖のほうが多く存在することを示していました。ノックアウトマウスの解析から、直鎖状と63型ポリユビキチン鎖どちらもNF-κBの活性化に関与していると考えられますが、それぞれが同じ役割を担っているのか、それとも異なる役割を分担しているのか、それぞれの鎖の機能がより明らかになると興味深いと思いました。

今回の学会では、分子生物学的解析に加えて、構造生物学的な研究の発表もあり興味深かったです。Hao Wuのグループは、IKKβの結晶構造解析を行い、

IKKβがどのように基質特異性を生み出しているのか解析を行っていました。また、Shuya Fukaiのグループは、63型のジユビキチンとTAB2のNZFドメインの共結晶構造解析と直鎖状のジユビキチンとLUBACのNZFドメインの共結晶構造解析を比較して、各ユビキチン結合ドメインとユビキチン鎖の結合様式の解析を行っていました。今回の発表を聞いて、生体内で起きている現象を理解するためには、分子生物学的手法に加えて構造生物学的観点など多方面からのアプローチが重要であることを改めて実感しました。

私は、新規NF-κB活性化抑制分子の同定に関してのポスター発表を行いました。発表時間は1時間30分と長かったのですが、質疑応答に加えて、実験に対するアドバイスや意見を頂けたのでとても有意義な発表となりました。また、今回はせっかくの国際学会なので、シンポジウムにおいて最低1回は質問をしようと心掛けて参加しました。ネイティブの方に自分の英語が通じるか少々不安でしたが、思い切って質問ができたのでよかったです。今回の学会に参加したことによって、研究に関してはもちろんのこと、英語でのプレゼンテーションに関してもとても勉強になりました。シンポジウムは半数以上が海外の研究者の発表だったので、どういったときにどのような英語の言い回しをすればよいのか、質疑応答でどのようにうまく答えるかなどを学ぶことができました。


夕食時の様子

学会の夕食時は、円卓に自由に座わって食べる形式でしたので、近くに着席した研究者の方と交流することができました。私の研究室のメンバーが着席したテーブルにTak W. Mak、Zhijian James Chen、Hao Wu、Shigekazu Nagataら著名な研究者の方々が同席し、彼らと会話ができたことがとても嬉しかったです。特に、Tak W. Makには彼の研究室で進めているプロジェクトなどについて細かく話して頂き、とても有意義な時間を過ごすことができました。

各分野の著名な研究者の発表を聞くことができたので、この学会への参加は研究に対する意欲がさらに増すよい機会となりました。また一方で、英語での質疑応答、ディスカッションがまだまだ未熟であることを実感する機会にもなりました。今後もよい研究成果を残せるように、また、国際学会などで自分の成果をアピールできる英語力、プレゼンテーション能力を身につけられるよう精一杯努力していきたいと思います。