Home > トピックス・イベント > Conference Report ~TNF 2011での感銘~

Conference Report ~TNF 2011での感銘~

東京大学医科学研究所・分子発癌分野
田口 祐 

2011年5月15日(日)から18日(水)にかけて「13th international TNF conference “TNF 2011”」が、兵庫県淡路島の淡路夢舞台国際会議場(Awaji Yumebutai International Conference Center, Hyogo, JAPAN)で催されました。この会場周辺には見渡す限りの海と山が広がっており、会期の4日間は濃密なscienceの時間を過ごすことができました。

参加させて頂いたinternational TNF conferenceは今回で13回目の開催となる国際学会です。human Tumor Necrosis Factor (TNF)がcloningされた1987年に第一回のconferenceが開催され、それから隔年で世界各地にて開催されています。TNF super familyとその受容体に関連する分子メカニズムを中心に、生理学的・病理学的解析にまで踏み込んだ研究成果が発表され、このconferenceに参加するだけでTNF super familyに関連する最先端の研究成果を網羅的に把握することができます。私が参加させて頂いた今回のconferenceは「免疫」「発生」「アポトーシス」「自己免疫」「癌」「感染」「神経」などがテーマとして設定されたセッションも有り、様々な疾患をTNF / TNF-receptor super familyの分子メカニズムを切り口として解析した研究成果が多く発表されていました。TNF / TNF-receptor super familyに関わる研究者が現在何に注目しているのかを俯瞰的に理解し、世界の研究の”流れ”を感じることができました。

今回のconferenceには約20カ国から参加者が集まったそうです。口頭発表が約50演題、ポスター発表が約150演題、参加者が300人を超えており、中規模の学会であったと思います。このくらいの規模の学会は参加者の多様性が富んでいるのに、交流が図り易い点がメリットだと思います。今回のconferenceは日本での開催のためか参加者の約半数は日本人でしたが、それでも多くの外国人研究者と交流することが出来ました。昼食と夕食はホールで会食になっており、偶然同席した外国人研究者の方々と色々な話をすることができ、貴重な経験となりました。彼らから聞いた研究内容のみならず、研究に対する姿勢とそれを基礎においた生活習慣や考え方は、今後世界を相手に研究を続けるにあたって大変参考になりました。特に欧米の研究者は純粋にscienceを楽しんでおり、新しい研究成果に興味が尽きない様子で様々な場所で議論して話し込んでおり、その姿勢に深く感銘を覚えました。

私はポスターにて「A unique cytoplasmic domain in RANK induces long-term signaling required for osteoclastogenesis」のタイトルで発表させて頂きました。TNF-receptor super familyに属する受容体RANKにおいて、破骨細胞分化誘導に必須な役割を担っている新規機能領域HCRを発見したことと、その機能に関して報告しました。ポスターセッションは昼食後から90分間が予定されていましたが、上述した様に昼食時から同席した方々と既に議論が始まり、食事後にそのままポスター会場に移動して議論を続けるため、発表時間は90分を超えていました。RANKからの細胞内シグナル伝達における分子メカニズムに関して新たなモデルを提唱した際、私のポスターを見に来た全ての外国人研究者は詳しい説明を求めながら、完全に納得・理解するまで徹底的に質問し、最後には質問者本人の研究課題と関連させた考察を述べていました。彼らの研究への情熱と、研究課題を発展させようとする「攻め」の姿勢を垣間見た気がしました。

私の研究対象である破骨細胞に関する発表は残念ながら少なかったですが、その分だけ発表者の方々と長い時間議論することができ、更にはお互いの顔と名前を覚えることができて、非常に有意義でした。特に、Dr. Deborah Novackとお会いできたのは嬉しかったです。Dr. Novackは、破骨細胞の分化誘導メカニズムを転写因子NF-κBに注目して解析しており、特にNF-κBを活性化するシグナル伝達経路のうちalternative pathwayを重点的に解析しています。今回のconferenceにおいては、抗癌剤として開発されている化合物BV6がc-IAP1、c-IAP2の分解を誘導し、それに伴いNIKが安定化されてalternative pathwayによるNF-κBの活性化が亢進し、破骨細胞の分化誘導を促進するという結果を報告していました。c-IAP1/2とNIKに関しては、ここ最近において多くのTNF-receptor super familyの下流で機能していることが報告されており、その分子メカニズムも数多く報告されていました。今回のconferenceでもTNF receptorやNOD receptor、Tweek receptorやCD40の下流におけるc-IAP1/2の機能に関する発表があり、注目の高さが伺えました。しかし、このconferenceでの発表までc-IAP1/2がRANKの下流で機能していることは報告・発表されておらず、Dr. Novackの発表の新規性に驚きを感じると共に、大変興味を引かれました。また、Dr. Novackは、マウスにBV6を投与するとhigh turnover型のosteoporosisを呈することと、活性化された破骨細胞の助けによって癌骨転移の頻度が急増することを示し、BV6の問題点を指摘していました。

Dr. Lionel IvashkivのグループのDr. Anna Yarilinaは、ヒトから採取した末梢血由来のマクロファージをTNFで10日間ほど刺激すると破骨細胞へと分化することを発表していました。転写因子c-JunとNF-κBがTNF刺激により長期間活性化され、それに伴い破骨細胞分化のマスター転写因子NFATc1の発現誘導が起こり、破骨細胞へと分化するというモデルを提唱していました。この分化誘導はヒト特異的であり、マウスでは分化誘導が起こらないことも示しており、破骨細胞分化誘導メカニズムにおける進化的側面からの興味を引かれました。Dr. Yarilinaはリウマチによる炎症部位の病態がマウスとヒトで若干異なる原因を解明する手がかりになると考察しており、研究成果の医療面への応用を考える際にモデル生物から得られた実験結果のみで考察を進めてしまうことの危険性を示していました。

国際学会なので、使用される公用語は当然ながら英語です。おそらく、conference会場内において私の英語が一番下手だったでしょう。夕食時に同席したDr. Tak W. Makは私と話す際はユックリと話し、親切に聞いて下さいました。私のポスターを見に来て議論して下さった方々も同様でした。しかし、自分の言いたいことを全力で伝えられない不甲斐なさを、今回のconferenceで痛感しました。他の研究者を惹き付ける様な成果を挙げることを目指すと共に、それを世界に発信できるように英語の習得にも今後力を注いで行こうと思います。また、今回のconferenceでは、世界の最先端がこんなにも身近にあることを実感することができ、研究への更なるモチベーションを得る機会となりました。再び参加できるように、今後も頑張っていきたいと思います。

最後に、このような貴重な経験を得る機会を与えて頂き、井上純一郎先生に深く感謝しております。有り難うございました。


Banquetの様子。外国人研究者と共に日本文化(浄瑠璃)を堪能しました。


夕食で同席して頂いた先生方 (左から、田口(筆者)、Dr. Zhijian James Chen、井上純一郎先生、Dr. Tak W. Mak、長田重一先生(chair)、秋山泰身先生、Dr. Ming-Zong Lai)。