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研究成果

徳永文稔(阪大・院医・医化学)
Fuminori Tokunaga, Tomoko Nakagawa, Masaki Nakahara, Yasushi Saeki, Masami Taniguchi, Shin-ichi Sakata, Keiji Tanaka, Hiroyasu Nakano & Kazuhiro Iwai
SHARPIN is a component of the NF-κB-activating linear ubiquitin chain assembly complex.
Nature 471, 633-636, (2011)[PubMed]
Fumiyo Ikeda, Yonathan Lissanu Deribe, Sigrid S. Skånland, Benjamin Stieglitz, Caroline Grabbe, Mirita Franz-Wachtel, Sjoerd J. L. van Wijk, Panchali Goswami, Vanja Nagy, Janos Terzic, Fuminori Tokunaga, Ariadne Androulidaki, Tomoko Nakagawa, Manolis Pasparakis, Kazuhiro Iwai, John P. Sundberg, Liliana Schaefer, Katrin Rittinger, Boris Macek & Ivan Dikic
SHARPIN forms a linear ubiquitin ligase complex regulating NF-κB activity and apoptosis
Nature 471, 637-641, (2011)[PubMed]

要約

NF-κB経路は、自然・獲得免疫、炎症、抗アポトーシスに関連する遺伝子群の発現を制御する転写因子で、その機能不全は慢性炎症に伴って惹起されるガン、関節リウマチなど膠原病、アトピー性皮膚炎など多くの疾患に関わることが明らかになっています。私たちは直鎖状ポリユビキチン鎖という新たな翻訳後修飾がNF-κB制御に重要であることを見いだしていましたが、今回さらに、直鎖状ポリユビキチン鎖を生成するユビキチンリガーゼ(LUBAC)のサブユニットとしてSHARPINを同定しました。SHARPINの自然変異マウス(cpdmマウス)は皮膚炎を発症することが知られており、私たちはこの病態発現がLUBACの発現低下によるNF-κB活性減弱であることを突き止めました。LUBACの活性制御剤を探索することによって、新たな創薬に繋がると期待しています。

詳細

NF-κBは、5つのRelファミリータンパク質、すなわちRelA(p65)、RelB、c-Rel、NF-κB1(p50/p105)、NF-κB2(p52/p100)のホモまたはヘテロ二量体からなる転写因子で、自然・獲得免疫、炎症、抗アポトーシス、リンパ球の成熟、細胞接着などに関連する多数の遺伝子の調節を担っている。このためNF-κBの制御不全は癌、リウマチ、アトピー性皮膚炎など多くの病態に関連し、臨床や創薬の面からも高く注目されている。NF-κB活性化経路は古典的経路(canonical pathway)と非古典的経路(non-canonical pathway)の2経路に大別され、いずれの経路においてもリン酸化とともにユビキチン修飾系が大きな役割を担っている。

我々は、HOIL-1LとHOIPというRINGフィンガー型ユビキチンリガーゼが複合体を形成すること見いだし、さらにこれがユビキチンのN末端α-アミノ基を介して直鎖状ポリユビキチン鎖という、これまでの概念を超越したポリユビキチン鎖を生成することを示した(Kirisako T., et al., EMBO J., 2006)。そこで我々は、HOIL-1LとHOIPからなる600 kDaのE3複合体をLUBAC (linear ubiquitin chain assembly complex)と命名した。さらにLUBACの生理機能は、NF-κB経路の主要酵素であるIκBキナーゼ(IKK)の制御サブユニットであるNEMOを直鎖状ポリユビキチン化することで、古典的NF-κB経路を制御することであると突き止めた(Tokunaga F., et al., Nature Cell Biol., 2009)。

さらに本論文では前報で作製したHOIL-1LのKOマウス細胞中でHOIPが残存することから、HOIPに別の結合パートナータンパク質の存在が示唆されたため、HOIL-1Lに相同性の高い領域を含有するSHARPINの解析を行った。その結果、まずSHARPINはHOIL-1L/HOIPとともに生理的な三者複合体として存在することが確認され、LUBACはSHRAPIN/HOIL-1L/HOIPの三者によって構成されることが明らかになった(図1A)。さらに興味深いことに、cpdm(chronic proliferative dermatitis)マウスと呼ばれる皮膚炎や二次リンパ器官形成不全を自然発症する突然変異マウスの原因がSHARPIN遺伝子の異常によって引き起こされることが報告され(図1B)、この表現型がNEMOの変異で引き起こされるEDA-ID(無汗腺性外胚葉異形成を伴う免疫不全症候群)の病態に類似した表現型を示すことからNF-κB活性化への影響を解析した。その結果、cpdm由来細胞ではSHARPINが欠失することでLUBACの他のコンポーネントであるHOIL-1LやHOIPの細胞内量も著減することや、TNF-α、IL-1β、CD40L刺激に伴う古典的NF-κB活性化が減弱することが示された。

本論文が掲載された同じ号では、Walczakら及びDikicらも同様にSHARPINに着目したNF-κB制御に関する論文を発表した。ArticleとなったWalczakらは、TNF受容体会合タンパク質を解析してNEMO以外にRIP1もLUBACによって直鎖状ポリユビキチン化される基質であることを見いだしており、Dikicらはアポトーシス惹起との関連を示した。我々は、生化学的、細胞生物学的にSHARPINを含有するLUBAC複合体の存在を精査した。これらの研究が相互に補完することによって、SHRAPIN/HOIL-1L/HOIPからなるLUBACは、確かに直鎖状ポリユビキチン鎖形成活性を介して古典的NF-κB制御を司る重要なリガーゼであることが示されるに至った(図2)。今後、LUBACを標的とすることで膠原病などに向けた新たな創薬に繋がることが期待される。