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東京大学 医科学研究所 分子発癌分野
柴田 佑里
2014年2月23日から28日にかけてColorado州Keystoneで開催されたKeystone symposia The NF-kappaB system in health and diseaseに参加しました。この学会は、転写因子NF-κBの研究分野に関わる研究者が集う場として隔年で開催されています。NF-κBは免疫応答、炎症反応、細胞増殖など様々な生命現象に関わる転写因子ですが、一方で、NF-κBの制御不全は炎症性疾患やがんの原因になることも知られています。今回の学会では朝から夕方にかけてシンポジウムがあり、夜にポスター発表が行われました。シンポジウムはいくつかのセッションに分かれており、 NF-κBの転写活性制御機構 (NF-κB二量体の細胞特異性やIκBファミリーに関する研究など)、炎症反応や自然免疫応答におけるNF-κB活性化機構、DNAダメージなどの細胞障害性の刺激で誘導されるNF-κB活性化機構、がんにおけるNF-κBの役割、さらにはNF-κBシグナル伝達経路を標的にした治療に関する発表がありました。
シンポジウムはDavid Baltimoreの「NF-κB: Still surprising」という演題で始まりました。NF-κBの発見から今日までにNF-κB経路に関わる分子が数多く同定されていますが、この講演はmicroRNAによるNF-κB活性化制御が慢性炎症時のHematopoietic stem cells (HSCs) のホメオスタシスに重要であるという内容でした。miR-146aはTRAF6やIRAK1を標的としてNF-κB活性化を負に制御することが知られています。老齢のmiR-146aノックアウトマウスは慢性炎症の症状を示しますが、老齢miR-146aノックアウトマウスやLPSを投与したmiR-146ノックアウトマウスでは野生型よりもIL-6が過剰に産生され、これがHSCsから骨髄細胞への異常な分化に繋がるということでした。NF-κBの発見から25年が過ぎましたが、NF-κBに関する研究は今後もstill surprisingであると思います。
圧巻だったのはZhijian James Chenの細胞質内DNAセンサーに関する発表です。生体には微生物由来の核酸を認識してⅠ型インターフェロン産生などの自然免疫応答を引き起こす機構が存在しますが、細胞質内DNAを認識する受容体はcontroversialでした。彼らはDNAを導入した細胞から細胞質抽出液を調製し、それを透過処理した細胞に混ぜてSTING活性化を誘導する系を立ち上げていました。面白いことにDNA刺激後の細胞質抽出液に熱処理、核酸分解酵素処理、プロテアーゼ処理を加えても、細胞質抽出液はSTING活性化能を保持していました。その後の質量分析によってセカンドメッセンジャーとして機能するcyclic GMP-AMP (cGAMP) と合成酵素cyclic GMP-AMP synthase (cGAS) が同定され、ノックアウトマウスの解析からcGASがDNA誘導性の自然免疫応答において重要な役割を果たすことが明らかとなりました。James chenとお昼をご一緒した際に、cGAMPは比較的簡単に同定できたのに対して、cGASは内在性の発現量が少ないために同定が非常に大変だったと聞きました。さらには、cGAS、cGAMPの同定と解析のために合計でディッシュ2000枚分の培養細胞を扱ったと聞いて、驚くとともにハードワークの大事さも再認識しました。
Keystoneは標高約3000mに位置し、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツを楽しむことができます。多くの学会参加者がスキーをしたり、スノーモービルに乗って楽しんだという話を聞きました。私は高山病になってしまい学会期間中頭痛がひどかったので、ほとんどKeystoneリゾートを満喫できませんでした。学会主催のアクティビティなどは他参加者と知り合いになれるよい機会だと思うので、また参加する機会があればリベンジしたいと思います。
Keystoneリゾートの様子
私はHTLV-1 Tax誘導性のIKK複合体活性化に関わる分子の同定に関してポスター発表を行いました。Zhijian James ChenやTomasz Kordulaがポスターを見に来てくれたので嬉しかったです。他にもウイルスタンパク質に興味のある方が来てくれ、有意義なディスカッションをすることができました。
この学会は自分の研究分野の発表ばかりということもあり、研究に対する意欲がさらに増しました。自身の研究に応用してみたい実験手法等もあったので、この学会で学んだことを今後の研究に活かしていきたいです。また、2年前に参加した時よりは英語でのプレゼンテーションや質疑応答がうまくできたと思いますが、自分が目標とするレベルにはまだまだ達していないのを実感しました。今後も、国際学会などで自分の成果をアピールできる英語力、プレゼンテーション能力を身につけられるよう一層努力したいと思います。