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概要:神経細胞間はシナプスを介して信号のやり取りが行われる。シナプス可塑性は、一過性の刺激によりシナプスでの信号伝達効率が変化し、刺激がなくなった後も変化が持続する現象で、特に長時間伝達効率が変化する現象を長期増強(LTP)や長期抑制(LTD)と呼び、記憶の素過程であると考えられている(図1)。シナプス可塑性の重要な因子はAMPA型受容体(AMPAR)、NMDA型受容体(NMDAR)、Ca2+、リン酸化酵素CaMKII、脱リン酸化酵素カルシニューリン(CaN)であり、以下のメカニズムがシナプス可塑性の背後にあると考えられている。
図1 シナプス可塑性の現象
伝達物質の放出→AMPAR活性化によるシナプス後細胞の脱分極→NMDAR活性化→Ca2+流入
→CaMKII/CaN活性化→AMPAR/NMDAR修飾
(最後はAMPAR/NMDARの修飾であり、Ca2+流入の原因タンパクに戻り、ループを形成。)
ポンチ絵とA-Cellモデル:ポンチ絵及び対応するA-Cellモデルを図2に示す。
図2 シナプス可塑性メカニズムのブロック図と対応するA-Cellモデル
ポンチ絵はブロック図で、各ブロック内反応はかなり複雑である(A-Cellモデルはこちら)。モデルの詳しい解説は本文書の目的ではないので避ける。ここでは全体を把握できるポンチ絵をまず描き、各部に対応したA-Cellモデルをつくることで全体が完成できることを理解していただきたい。各部にはいくつかのタンパク質の反応が記載されているが、基礎で述べた反応の組み合わせである。各タンパク質がどのような状態をとるかは、初級「膜型細胞外マトリクス分解酵素(MT1-MMP)による細胞外マトリクス(ECM)の分解」のFig.3に示すような状態遷移図を作ることが大きな助けとなる。
文献:Ichikawa, K., et al., Neurocomputing, 2007, 2055.
Ichikawa, K., Neuroinformatics, 2005, 49.
Ichikawa, K., Neurocomputing, 2004, 709.
概要:「【初級】膜型ECM分解酵素によるECM分解」で示したようにMT1-MMP(M14)は細胞内から細胞膜へ運ばれる。細胞膜上でMT1-MMPはTIMP-2(T2), MMP-2(M2)と複合体の形成を行ったり、ECMを分解する。ECMの分解が活発な部位をInvadopodiaと呼び、ここではInvadopodiaにおけるECM分解の3Dモデルを作成する(Fig.1)。
ポンチ絵とA-Cellモデル:反応のポンチ絵は「【初級】膜型細胞外マトリクス分解酵素(MT1-MMP)による細胞外マトリクス(ECM)の分解」を参照していただきたい。ここでは、3Dモデル構築のポイントを以下にまとめる(A-Cellモデルはこちら)。
Fig.1のInvadopodiaに注目した赤い破線部分を真上から見た図がFig.2で、実際のA-Cellによる形態モデルがFig.3である。ここではInvadopodia部位(Fig.3 赤い部分)とそれ以外の細胞膜部位に分ける。
Figure 2
MT1-MMPによるECMの分解がInvadopodiaでのみ起こるように、Fig.3の赤コンパートメントにのみMT1-MMP関連の反応式(Fig.4)を割り付ける。TIMP-2 とMMP-2は空間を拡散して反応の進行とECMの分解を生じるので、形態全体に割り付ける(Fig.5)。
文献:Hoshino D., et al., PLos Comput Biol., Vol.8(2012), e1002479