Home > 研究組織 > 公募班員 > 加藤順也
COP9シグナロソームを介した脱Nedd8化によるシグナル伝達と発がんの理解
【研究概要】
シグナロソームとは、細胞外のシグナルが細胞内に伝わる際に特異的受容体とシグナル伝達機構が集積する情報変換装置のことをさし、本提案では、COP9シグナロソーム(CSN)を取り上げる。COP9シグナロソーム(CSN)は8つのサブユニット(CSN1~8)からなるタンパク質複合体で、広範囲の生物種で高度に保たれ、さまざまな生命現象に関与する。COP9シグナロソームは、ユビキチン様蛋白質Nedd8を標的蛋白質(Cullin)から外す(脱Nedd8化活性)ことにより、Cullin-RING型ユビキチンリガーゼの活性を制御する機能を有し、これによりさまざまなシグナル制御因子の発現量や活性を調節する。これまでに、CSNの機能は癌遺伝子Rasによる細胞がん化に必須であり、また、NFkBの機能制御にも重要であることが報告されている。我々は、脱Nedd8化活性に中心的役割を果たす第5サブユニット(CSN5またはJab1)に着目し、以下のことを発見した。
- CSN5/Jab1が、ヒトのさまざまな癌で高発現している。
- CSN5/Jab1のノックアウト(KO)マウスは、かなり早い発生段階(embryonic day 5.5~7.5)での胎生致死となる。CSN5/Jab1ノックアウト細胞は増殖能を失い、アポトーシスを起こし、p53、p27、サイクリンEの発現が増加している。
- 培養細胞株でのCSN5/Jab1のノックダウンも同様の増殖抑制効果をもたらす。
- CSN5/Jab1を過剰発現させたトランスジェニック(Tg)マウスでは、造血幹細胞のプールが増大し骨髄性増殖性疾患の症状を示し、また、幹細胞分画ではがん抑制CDKインヒビターp16の発現誘導が抑制される。
- CSN5/Jab1は多くの細胞周期制御因子と相互作用する、ことを見いだしており、さらに、CSN5/Jab1の条件性ノックアウト遺伝子座を持つ細胞を用いた解析から、
- CSN5/Jab1の機能は細胞周期の多くの時期で必要である。
- CSN5/Jab1はDNA量(ploidy)を制御する(エンドサイクル制御)。
- CSN5/Jab1は細胞老化を制御する、ことを明らかにした。
海外でNedd8化酵素の阻害剤が抗癌剤として開発されつつあることを踏まえ、本研究では、CSNと脱Nedd8化活性に着目し、細胞がん化シグナル経路におけるNedd8化の役割を明らかにする。
【参考文献】
- Yoshida A, Yoneda-Kato N,
Panattoni M, Pardi R, and Kato JY., CSN5/Jab1 controls multiple events in the
mammalian cell cycle. FEBS Lett. 584,
4545-4552 (2010)
- Kato JY, and Yoneda-Kato N.,
Mammalian COP9 signalosome. Genes to
Cells 14: 1209-1225 (2009)
- Mori M, Yoneda-Kato N, Yoshida A, Kato JY.
Stable form of Jab1 enhances proliferation and maintenance of hematopoietic
progenitors.J. Biol. Chem., 283: 29011-29021 (2008)
- Yoneda-Kato, N., Tomoda, K., Umehara, M., Arata, Y., and
Kato, J. Y.. Myeloid leukemia factor 1 regulates p53 by suppressing COP1 via
COP9 signalosome subunit 3. EMBO J. 24: 1739-1749, 2005.
- Tomoda, K., Yoneda-Kato, N., Fukumoto, A., Yamanaka, S.,
and Kato, J. Y. Multiple functions of Jab1 are required for early embryonic
development and growth potential in mice. J. Biol. Chem., 279: 43013-43018(2004)