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肝疾患における転写因子Nrf2の機能変化
【研究概要】
Nrf2は、異物代謝や抗酸化に関与する遺伝子群を一括して活性化する転写因子である。通常、Nrf2はユビキチンE3リガーゼCullin3のアダプターであるKeap1と結合して、ユビキチン標識を受けてプロテアソームで分解される。しかし、反応性に富んだ親電子性物質や酸化ストレスに曝されると、Keap1とNrf2の結合が減弱し、Nrf2は分解を免れて安定化する。核に蓄積したNrf2は、sMaf群因子と共に抗酸化剤/親電子性物質応答配列(ARE/EpRE)に結合して、標的遺伝子の発現を誘導する。我々は、遺伝子改変マウスを利用して、生体におけるKeap1-Nrf2システムの役割や分子機構の解明に挑んでいる。Nrf2の標的遺伝子の多くは異物代謝や抗酸化に関与するため、これまでの解析から、生体防御機構としてのKeap1-Nrf2システムの役割が確立されている。一方、多くのがん細胞では、先述した緻密なNrf2の制御システムが破綻しており、異常なNrf2の活性化がみられた。しかし、組織特異的Keap1欠損マウスにおいてNrf2を恒常的に活性化させただけでは、がんは発症しない。面白いことに、Pten欠損とKeap1欠損が同時に起こると、Keap1欠損単独ではみられないようなNrf2の新規標的遺伝子群の発現の上昇が起こり、がん細胞の増殖を有利にすることを見出した。そこで、PI3K-Aktシグナルが活性化した細胞においてNrf2の活性化が増強するのではないかと考え、がん抑制遺伝子Ptenの肝臓特異的欠損(Pten-Alb)マウスに着目した。Pten-Albマウスは、脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎を経て、肝臓がんを発症する。若齢のPten-AlbマウスにおいてNrf2は活性化しないが、肝臓がんを発症したPten-Albマウス(1年齢)ではNrf2が活性化していることを見出した。また最近、PtenとNrf2の二重欠損(Pten-Alb/Nrf2)マウス(1年齢)では肝臓がんの発症が抑制されていることが分かった。そこで本研究では、加齢とともに変化するPten-Albの肝疾患(脂肪肝、脂肪肝炎、肝臓がん)におけるNrf2活性化の分子機構とその機能変化について検討する。
【参考文献】
- Taguchi, K, Fujikawa, N, Komatsu, M, Ishii, T, Unno, M, Akaike, T, Motohashi, H and Yamamoto, M. Keap1 Degradation by Autophagy for the Maintenance of Redox Homeostasis. Proc Natl Acad Sci USA 109, 13561-13566 (2012)
- Mitsuishi Y*, Taguchi, K*, Kawatani Y, Shibata T, Nukiwa T, Aburatani H, Yamamoto M, Motohashi H. Nrf2 redirects glucose and glutamine into anabolic pathways in metabolic reprogramming. Cancer Cell 22, 66-79 (2012) *contributed equally to this study
- Taguchi, K., Motohashi H, Yamamoto M. Molecular mechanisms of the Keap1-Nrf2 pathway in stress response and cancer evolution. Genes Cells 16, 123-140 (2011)
- Taguchi, K., Maher JM, Suzuki T, Kawatani Y, Motohashi H, Yamamoto M. Genetic Analysis of Cytoprotective Functions Supported by Graded Expression of Keap1. Mol Cell Biol 30, 3016-3026 (2010)
- Komatsu M, Kurokawa H, Waguri S, Taguchi, K., Kobayashi A, Ichimura Y, Sou YS, Ueno I, Sakamoto A, Tong KI, Kim M, Nishito Y, Iemura S, Natsume T, Ueno T, Kominami E, Motohashi H, Tanaka K, Yamamoto M. The selective autophagy substrate p62 activates the stress responsive transcription factor Nrf2 through inactivation of Keap1. Nat Cell Biol 12, 213-223 (2010)
- 田口恵子、山本雅之. 第2章7節「活性酸素種や親電子性物質によるシグナル伝達」シグナル伝達研究の最前線 2012-2013『実験医学』2012増刊号, 30, 759-765, 羊土社(2012)
- 田口恵子、本橋ほづみ. 第3章6節「代謝リプログラミングにおける酸化ストレス応答機構の役割」活性酸素・ガス状分子による恒常性制御と疾患『実験医学』2012増刊号, 30, 2814-2821, 羊土社 (2012)