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病態モデル細胞を用いたシグナル伝達破綻メカニズムの解明
【研究概要】
キナーゼを標的とした病態分子機構探索や創薬が大きな注目を集めている中、実際に「細胞の中で」どのようにしてシグナル伝達が破綻しているのかを検証するための、病態を細胞レベルまで落とし込んだ解析システムが早急に必要とされている。そこで我々が開発する形質膜を透過性にした「セミインタクト細胞」およびその穴を閉じた「リシール細胞」を応用した、病態での異常な細胞内状態を保持した上でシグナル伝達を解析できるシステムの構築を提案する。セミインタクト細胞とは、連鎖球菌の酵素感受性毒素であるストレプトリシンO
(Streptolysin O; SLO) などを形質膜に作用させることにより、形質膜を部分的に透過性にした細胞のことである。ここに(細胞を一個の試験管に見立てて)新たに外部より分画した細胞質成分とATP再生系などを添加し、細胞質に依存的な細胞内のイベントを再構成し、その中で生起する生命現象を生物物理学的、生化学的に解析できる。よって、セミインタクト正常細胞に病態モデルマウス組織より調製した病態細胞質を導入することにより、病態細胞内の環境をセミインタクト細胞内で再現し、病態特異的に現れるシグナル伝達過程の異常を検出できることになる。さらに導入する細胞質からの特定タンパク質の免疫除去やdominant
negativeタンパク質の添加などで、シグナル伝達異常に関わるタンパク質群を同定するための機能検定系となる。さらに我々はこの方法を進化させ、セミインタクト細胞をリシーリング(再封入)して続けて培養・継代可能とするリシール細胞技術も開発した。この技術によりセミインタクト細胞では樹立できなかった細胞膜を介したシグナル伝達過程を構築することが可能となり、生きた「病態モデル細胞」として病態改善・進行に関わる様々な薬剤・タンパク質動態などの可視化解析・スクリーニングへの応用も視野に入っている。本申請研究では、リシール細胞を応用した「病態モデル細胞」を駆使し、①PI3キナーゼ(PI3K)-Akt-Foxo1経路の可視化再構成系を構築し、②高脂血症あるいは糖尿病環境下におけるPI3k-Akt-Foxo1経路のかく乱を検出する。さらに③DNAアレイ解析で抽出した遺伝子情報と組み合わせ、高脂血症あるいは糖尿病環境下で誘発されるシグナル伝達攪乱メカニズムを明らかにする。本申請研究で構築する「病態モデル細胞」では、短時間でlow costで病態環境下における候補タンパク質の機能を検証することが可能である。よって、本解析系と当該領域研究者によるタンパク質機能解析や数理科学解析の知見を相互にフィードバックを繰り返すことで複雑で多様な情報から鍵となるタンパク質・モデルとなるネットワークを抽出しうると考えられる。また、この解析技術は個体を用いた疾患研究とin vitroのタンパク質研究の中間に位置し、「病態の時、細胞の中ではどのような異常が発生しているか」を解析できる、ほとんど唯一の独創的な特徴を持つ解析システムである。本申請研究の「病態モデル細胞におけるシグナル伝達破綻機構の解明を通し、領域の推進に貢献できると考えている。
【参考文献】
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