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ERK経路の多細胞動態と細胞増殖制御の解明

研究代表者
青木一洋
京都大学大学院医学研究科 時空間情報イメージング拠点
https://sites.google.com/site/qsimulationproject/

【研究概要】

 細胞は外界からの種々の刺激を細胞膜上の受容体で感知し、その情報を細胞内の分子へと伝えることで細胞機能の恒常性を維持している。これが細胞内シグナル伝達である。細胞内シグナル伝達は、極論すると、生体物質の物理化学的な法則に従った拡散や化学反応の連鎖だと考えることができる。ということは、要素間の反応を微分方程式で記述し、反応速度定数などのパラメーターを指定することで、細胞内情報伝達をコンピューター上でシミュレートすることができる。しかしながら、実験的に決められた反応パラメーターが不足しているために、これまで定量的なシミュレーションモデルを構築することが不可能であった。私はこれまで細胞の増殖や癌化に深く関与するEGFR-Ras-ERK MAPキナーゼシグナル伝達系を構成する反応の反応パラメーター(分子濃度、解離定数、核内核外移行速度、リン酸化/脱リン酸化速度)を実験的に測定し、定量的なシミュレーションモデルの構築を行ってきた(Aoki et al., 2011, Fujioka et al., 2006, Kamioka et al., 2010, Matsunaga-Udagawa et al., 2010, Yoshiki et al., 2010) 。これまでのアプローチをさらに進めるために、私は現在、生細胞内でのEGFR-Ras-ERK MAPキナーゼシグナル伝達系のダイナミクスを定量的に理解することを目的として研究をしている。私がこれまでに開発した蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理に基づくバイオセンサー(Aoki & Matsuda, 2009, Komatsu et al., 2011) を用いて、長期間ERK活性を生細胞で可視化したところ、ERK活性が確率的に振動していること、細胞密度依存的な細胞増殖速度がERK活性振動の振動数と正に相関することなどを見いだしている。本研究では、ERK活性の多細胞動態と細胞増殖の関係を実験的に明らかにし、数理モデル、シミュレーションを用いて定量的に表現することを目指す。

【参考文献】

  1. Aoki, K. & Matsuda, M. 2009. Visualization of small GTPase activity with fluorescence resonance energy transfer-based biosensors. Nat.Protoc., 4, 1623-1631.
  2. Aoki, K., Yamada, M., Kunida, K., Yasuda, S. & Matsuda, M. 2011. Processive phosphorylation of ERK MAP kinase in mammalian cells. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 108, 12675-12680.
  3. Fujioka, A., Terai, K., Itoh, R. E. et al. 2006. Dynamics of the Ras/ERK MAPK cascade as monitored by fluorescent probes. J.Biol.Chem., 281, 8917-8926.
  4. Kamioka, Y., Yasuda, S., Fujita, Y., Aoki, K. & Matsuda, M. 2010. Multiple decisive phosphorylation sites for the negative feedback regulation of SOS1 via ERK. J Biol.Chem., 285, 33540-33548.
  5. Komatsu, N., Aoki, K., Yamada, M. et al. 2011. Development of an optimized backbone of FRET biosensors for kinases and GTPases. Mol. Biol. Cell, 22, 4647-4656.
  6. Matsunaga-Udagawa, R., Fujita, Y., Yoshiki, S. et al. 2010. The scaffold protein Shoc2/SUR-8 accelerates the interaction of Ras and Raf. J Biol.Chem., 285, 7818-7826.
  7. Yoshiki, S., Matsunaga-Udagawa, R., Aoki, K., Kamioka, Y., Kiyokawa, E. & Matsuda, M. 2010. Ras and calcium signaling pathways converge at Raf1 via the Shoc2 scaffold protein. Mol.Biol.Cell, 21, 1088-1096.