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概日リズムの外環境周期への同調における時計蛋白質の翻訳後修飾の役割
【研究概要】
概日リズムとは、遺伝子発現、細胞のエネルギー代謝、動物の行動といった分子、細胞、および個体レベルの生命現象に観察される約24時間の周期変動です。この生命現象は生体の恒常性維持を担い、従ってその異常は発癌やメタボリック症候群などの多くの疾患の病態に関与することが知られています。
概日リズムは、入力系、ペースメーカー、および出力系の3つのコンポーネントにより構成されます。ペースメーカーは生命現象の日周期を作り出す機構ですが、その実体は生体の全身に存在し細胞自律的に制御される分子時計です。この分子時計に光、温度変化、エネルギー代謝の変化などのシグナルが伝達されその周期を外環境周期に同調させる過程が入力系です。さらに、分子時計が睡眠/覚醒や代謝などの生命現象に日周性を与える過程が出力系になります。
分子時計は転写・翻訳に依存した約24時間の周期性を有するフィードバックループであり、特に脊椎動物においては転写活性化因子CLOCK、BMALおよび転写抑制因子CRY、PER (哺乳動物の場合はPER1, 2, および3)の時計蛋白質により構成されます(図)。CLOCKはBMALと二量体を形成しCry及びPer遺伝子の転写を活性化し、一方でCRYとPERはCLOCK:BMAL1二量体に結合しその転写活性を抑制します。分子時計の転写の活性化と抑制の周期は約24時間になるように調節されており、従ってその標的遺伝子の発現および標的遺伝子の制御する生理機能には日周性が与えられます。マウスなどのモデル生物やヒトを対象とした解析により、分子時計の周期性制御や外環境周期への同調機構の異常が、発癌、代謝異常、躁鬱病などの疾患の病態に関連することが報告されています。
私は、分子時計の周期性制御における翻訳後修飾を介した時計蛋白質の機能調節の役割について研究を行ってきました。最近の研究は、生化学的な解析からストレス応答性リン酸化酵素カスケードであるMKK7-JNKシグナル経路がリン酸化修飾を介して時計蛋白質PER2を安定化し、定常状態の細胞の分子時計の周期性を調節することを見出しています。MKK7-JNKシグナル経路は物理化学的ストレスや炎症性サイトカインなどの様々な刺激に応答し細胞死や細胞分化、サイトカイン産生など細胞機能を制御するシグナル伝達経路です。私は、分子時計の周期調節を担う細胞内シグナルや時計蛋白質の翻訳後修飾が様々な外界からの刺激に応答し得ることに注目し、「時計蛋白質の翻訳後修飾が分子時計の外界周期への同調の分子メカニズムとして機能する」という着想に至りました。本研究は、この可能性についてマウスをはじめとするモデル生物を用いて解析を進めていきます。
MKK7-JNKシグナル経路による分子時計調節のモデル
参考文献
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