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数理モデルを用いた入力刺激パターンからの修飾シグナル病の理解

研究代表者
久保田浩行
九州大学 生体防御医学研究所 
トランスオミクス医学研究センター 
統合オミクス分野 教授

【研究概要】

インスリンはリン酸化修飾によるシグナル伝達経路を介してグリコーゲン蓄積や糖の放出抑制などの代謝を制御し、その作用の破綻は糖尿病を惹起する。血中のインスリンパターンは複数のパターンからなることが知られており、これらのパターン異常と2型糖尿病の関連が報告されている。つまり、2型糖尿病はインスリンの時間パターン異常による修飾シグナル病と捉えることができる。我々は、我々が世界に先駆けて提唱している「時間情報コード」の概念を基に、インスリンの刺激パターンの違いがpAKTのリン酸化パターンに異なる情報を多重にコードし、下流の分子を選択的に制御できることを実験と数理モデルで明らかにした(Kubotaら, Mol. Cell, 2012)。この成果は、生体内においても、血中インスリンパターンに情報がコードされ、リン酸化修飾を介したシグナル伝達経路によって情報が処理されている可能を強く示唆している。つまり、2型糖尿病による血中インスリンパターンの変化は、リン酸化修飾によるシグナル伝達機構の正確な情報の伝達不全を惹起し、2型糖尿病の発症・進行に関与している可能性が強いと考えられる。従って、生体内におけるシグナル伝達経路の特徴を明らかにするためには従来の研究のようなネットワーク構造の解析だけでなく、生体内での入力パターンも考慮した研究を行う必要性を強く示唆している。そこで本研究では、「時間情報コード」の概念に則り、インスリンの入力パターンの情報がリン酸化修飾を介してグリコーゲン蓄積や糖の放出抑制などの応答までどのように伝達されるかについて、生化学反応モデルを作成することで明らかにする。また、作成したモデルを縮約し、さらにトイモデルを作成・追加することで、ネットワーク構造によるインスリンなどの入力パターンの処理メカニズムを解析し、リン酸化修飾によるシグナル伝達経路の入力刺激パターンの処理メカニズムを明らかにする。

参考文献

  1. Uda, S., Saito, T., Kudo, T., Kokaji, Y., Tsuchiya, T., Kubota, H., Komori, Y., Ozaki, Y., and Kuroda, S., Robustness and compensation of information transmission of signalling pathways. Science., in press
  2. Noguchi, R., Kubota, H., Yugi, K., Toyoshima, Y., Komori, Y., Soga, T., and Kuroda, S., The Selective Control of Glycolysis, Gluconeogenesis and Glycogenesis by Temporal Insulin Patterns, Mol. Syst. Biol., 9, 664, 2013
  3. Kubota, H., Noguchi, R., Toyoshima, Y., Ozaki, Y., Uda, S., Watanabe, K., Ogawa, W. and Kuroda, S., Temporal Coding of Insulin Action through Multiplexing of the AKT Pathway, Mol. Cell, 46, 820-32, 2012
  4. Fujita, K., Toyoshima, Y., Uda, S., Ozaki, Y., Kubota, H. and Kuroda, S., Decoupling of Receptor and Downstream Signals in the Akt Pathway by Its Low-Pass Filter Characteristics. Sci. Signal.,3 (132), ra56, 2010
  5. Chung, J., Kubota, H., Ozaki, Y., Uda, S. and Kuroda, S., Timing-Dependent Actions of NGF Required for Cell Differentiation. PLoS ONE, 5(2), e9011,2010